最初の鱒を釣ったのは、いつか思い出せない。

父が福井県大野郡上穴馬村の出身で、九頭竜ダム建設の立ち退きにより現在の住まいに祖父母、兄弟とともに越してきた。

昔は針金を曲げ、焼きを入れて磨いた鉤に、馬の尻尾の毛を撚った道糸で釣りをしたという。もっぱら、岩魚を釣る毎日だったそうだ。親戚や友人がいたこともあり、父につれられてこの地をよく訪れた。えさ釣りだったが、たくさん釣りもした。へたくそで、いつも怒られていた。

まだ雪が残る3月の渓流は、子供にとって過酷そのものだった。木の近くを歩き踏み抜いて滑落したり、雪だらけの長靴の中で霜焼けになり、足が腫れ上がったこともあった。子供の頃は岩魚釣りが嫌い、だったかもしれない。

中学生高校生になりルアーでの釣りにも慣れてきた。まだまだ下手くそだったが、リールはアブアンバサダー。太いラインに、重たいスプーンを結んだ。タックルはきっとその流れにはそぐわない物だったが、豊かな川はいつも優しく流れてくれた。